「私も頑張ってみようかな」カナエールの子どもたち – 及川 卓也

 私がカナエールを知ったのは、カナエールを支援する知人からの依頼がきっかけだった。

 知人からの依頼は、児童養護施設で暮らす子どもたちの進学を支援する取り組みに向けて、当時私が勤めていたGoogleのChromebookを貸してもらえないかというものだった。Chromebookは見た目はWindowsパソコンと同じだが、クラウドでの利用を前提としたマシンのため、設定や利用方法がWindowsとは異なる。そこでChromebookやGoogleサービスの使い方を子どもたちとボランティアにレクチャーすることにした。これが2015年のことだ。

 私の中での児童養護施設のイメージは、タイガーマスクやあしたのジョーの孤児院だった。私も後から知ったのだが、「孤児院」と呼ばれていた時代は戦争孤児の世話をする施設の名残が残るものだったが、「児童養護施設」と呼ばれる今は親からの虐待により親元を離れなくてはならなくなった子どもの方が多い。世の中に3万人近くの子どもたちが児童養護施設で暮らしているのに、私はそのようなことも全く知らなかった。

 人は知らないことは不安だ。自分の知らないところで苦労している子どもたち。大変だなと思うものの、自分が彼らに接することはイメージできなかった。だが、IT機器の操作を教えるという立場で、気負うこと無く参加する中で出会ったのはごくごく普通の子どもたちだった。

 ともすると、“かわいそうな子”という色眼鏡で見てしまいがちだが、社会的に弱い立場に置かれていることと、個人として弱いということは異なる。全員がそうではないし、もしかしたら大多数は弱い立場に負け、個人も弱くなってしまう危険性があるのかもしれない。しかし、私が見たのは厳しい生い立ちだからこそ、頑張っている普通の子どもたちだった。

 カナエールというプログラムは、かわいそうな子どもを支援するプログラムではなく、頑張る子を応援するプログラムだ。目を背けたくなるような自分の過去を振り返り、人前で発表する。その過程で、自分の価値を他者目線で知ることができる。それが自信に繋がる。

 IT支援の立場として、2015年に関わったときは、初めて大人のボランティアたちとチームを組むチーム結成式、そして合宿と初期段階の子どもたちに会うことが出来た。その後、彼らを見たのはスピーチ当日だったのだが、あまりの変わりようにびっくりした。子どもたちの可能性を目の当たりにした瞬間だった。

 彼らは特別な子たちなのだろうか。いや、きっとそうではない。ごく普通の子どもは誰もが、夢を叶えるために頑張れば、あのような力を発揮し、大きく成長するのだろう。カナエールは児童養護施設に暮らす子どもたちのプログラムではあるが、今の日本の子どもたちのリアルな姿も知ることができる。

 閉塞感が漂うこともある現代の日本で、大人も子どもも将来に夢を抱けないでいる。カナエールのスピーチコンテストで子どもたちの発表を聞くことで、忘れていた夢を思い出し、将来への可能性を取り戻せる。少なくとも私はそうだった。

 「私も頑張ってみようかな」

 これは昨年一緒にスピーチを聞いた後の娘の言葉だ。自分はそんなに過酷な環境にはいない。自分はそんなに高尚な考えは持っていない。頑張る同世代の姿を見るのは、自分を否定することに繋がるかもしれないし、普段の頑張れていない自分がとても恥ずかしくなるかもしれない。いっそのこと、頑張ることをカッコ悪いと思ってしまおう。

 同世代の子どもだけではなく、大人でもそんな心理が働きがちだ。だが、カナエールの子どもたちの話はとても面白い。プログラムの中でアドバイスを受けながら内容も練られ、スピーチもトレーニングを受ける。結果、純粋に、話としても面白いものとなっている。一日、そのような楽しいイベントに参加するという心持ちで参加してもまったく問題ない。

 実は、昨年はGoogleを退職していたこともあり、カナエールへの支援は行っていない。私が抜けた後もGoogleの有志でIT支援は行っていたようだが、私はそこには関与していない。スピーチコンテストにだけ参加したが、2015年と同じように楽しめ、感動した。勇気と元気を貰った。

 社会への貢献というのは、常に高尚なことを考えている人だけが行うというものではない。ふと気付いたときに寄付するというだけでも十分だ。何故か社会的に良いことをすることに抵抗感を持つ人がいるが、その理由が自分はそんなに立派な人ではないと思っているからだとしたら、それは間違いだ。できることをできるときにするだけで十分貢献になる。

 昨年の私がそうであったように、一日だけスピーチコンテストに参加するだけで、それが夢を実現するために頑張る子どもたちへの応援となる。

 恐らく私以外の方もそうだと思うのだが、日々社会で暮らすということは楽しいことばかりではない。つい愚痴っぽくなってしまう自分がいたり、ずっと夢描いていた理想の自分とはほど遠い現実にため息が出てしまったりする。そんな時に思い出すことがある。決して背伸びをするわけではなく、でも確実に一歩を踏み出すその勇気を見せてくれたカナエールの子どもたちのことを。

 辛くなったときに思い出す言葉がある。カナエールのスピーチコンテストにゲスト参加していたYano Brothersの言葉だ。

 

”ハードルが高かったらどうするか?

くぐって行けばいい。先に行ければいいんだから。

他人が作ったハードルなんか関係ない。”

 

 今年もスピーチコンテストだけの参加となるが、是非足を運んでみようと思う。今の子どもたちを知るために、子どもたちを応援するために、そして自分の明日のために。

 


及川 卓也
一般社団法人情報支援レスキュー隊 代表理事

 大学を卒業後、外資系コンピュータメーカを経て、マイクロソフトにてWindowsの開発を担当。Windows Vistaの日本語版および韓国語版の開発を統括した後、Googleに転職。

 ウェブ検索やGoogleニュースをプロダクトマネージャとして担当。その後、Google ChromeやGoogle日本語入力などのプロジェクトをエンジニアリングマネージャとして指揮する。2015年11月より、Incrementsにてプロダクトマネージャとして勤務。

 2011年の東日本大震災後に、災害復興支援や防災・減災にITを活用する活動を開始。Hack For JapanおよびIT×災害コミュニティの発起人。また、個人的にスタートアップ企業や社会起業家、NPOなどに技術的なアドバイスを与えている。