一番の応援者

5分間。このたった5分間に全ての想いをのせて伝えるために、120日間という時間を費やすのがカナエールです。そして同じ舞台上の特等席でスピーチを聴けるこの5分間が自分の何事にも代えがたい大好きな時間なんです。
 
私が最初にカナエールを知ったのは学生時代に児童相談所の一時保護所でアルバイト職員をしていた頃です。
「施設出身の子に対して意欲と資金の面でサポートします。ただし条件として自分の夢を数百人の前でスピーチしてもらいます。」
児童養護の世界では「苦しい環境の中で生きる子どもに無償の愛を」という考えがスタンダードとなっている風潮がある中で、対象の子どもにこんなにハードルが高いことを要求する支援活動があるなんて珍しいなと思ったのが第一印象でした。児童養護の現場に関わる中で支援の問題と限界について思いを巡らしていた当時の自分は、「本当にそんな活動が出来るのか?」という半信半疑な感情と「なんかよく分からないけど新しい取り組みで面白そうだな」という興味本位な考えを胸に、今の現場とは違った支援活動を体験できるんじゃないかと変な期待を持ってカナエールボランティアに参加してみることにしたのを覚えています。
 
それから気が付くと5回のカナエールを経験しました。当初は一時保護所のイメージが強く「どんなに対応が難しい子でも諦めずに一緒にいるぞ」と覚悟を決めて臨んでいたのですが、その予想とは裏腹にカナエルンジャーたちは良い意味で「普通な子」であり奇妙な肩透かしを喰らいました。好きな芸能人やドラマの話題で盛り上がり、お互いが披露する恥ずかしい失敗談を一緒になって笑い合い、学校の勉強やアルバイトで疲れたと愚痴をこぼす。そんな特別ではなく当たり前の交流が自然と出来て、今を生きる等身大の若者たちでした。「児童養護下の子ども」という自分の中で持っていた暗く重い偏見を一気に吹き飛ばしてくれた大切な出会いと経験です。
 
カナエールを通して学んだのは「子どもたちから大切なものを教えてくれる」ということです。
本番1週間前の練習では原稿を見ないで喋るのがやっとで、感情を込めたり抑揚をつけたりする上乗せの期待なんて出来なかった子が、本番では誰よりもしっかりと前を向き自分の想いを語っていたことに愕然としたことがあります。「この子はここまででいい。十分頑張ったじゃないか。」という私の勝手な妥協に対して「大人が限界を決めるな。私は出来る。」と全身で示してくれたように感じました。その輝く姿に一番感動していたのは同じ舞台の脇にいた私たちだったでしょう。
また違う年には、進行状況チェックの意味もある中間発表の場でさえプレッシャーでお腹を痛めてしまう子もいました。本番直前の舞台裏では緊張で震える手をチームの皆で手を重ね合い励ましなんとか舞台に立ちましたが、スピーチ出だしから言葉が詰まって出てきませんでした。後からその子に聞いた話ですが、実はスピーチをしようと前を向いた瞬間に一番このスピーチを聴いてもらいたい人が目に入ってしまったようです。何年間も会っていない、会場に来てくれるかも定かでなかった人がいると知って想いが溢れて言葉が出なかったのです。長い静寂を打ち破り始まったスピーチは最高の出来でした。直前に廊下で練習したものよりも何十倍も心に響く言葉たち。「誰かに想いを伝えることの素晴らしさ」を再認識した瞬間でした。
 
正直なところ、カナエールに出場するカナエルンジャーは児童養護の世界ではとても恵まれていると思います。それは環境であったり、タイミングであったり、才能であったり。高校卒業後に進学を志し、何人もの大人たちとコミュニケーションを取り、自分の心情を冷静に分析し、それを何百人もの人の前で発表する。一時保護所で関わっていた子を思い返すとそんなこと想像も出来ません。でも彼・彼女たちはそのことを承知でこの高いハードルを乗り越えようとします。これからの自分のため、今までお世話になった人のため、同じ境遇にいる未来の子どもたちのため、希望を持って大人になれるような社会を作るため。それぞれがメッセージを伝えたい相手を想い描き、夢を叶えるチャンスを掴み取ろうと胸に秘めスピーチに挑戦するからこそ、あの会場の熱量が生まれるのだと思います。そんな場がもっともっと拡がって欲しいと心から願います。
 
カナエールボランティアとして大人側に問われることは「応援することの意味」です。恐らく人生の中でも最大級のプレッシャーと闘うカナエルンジャーを前にして、自分は何が出来るのだろう、何をすべきなのだろうと考える瞬間が度々訪れます。その度に「自分はこの子を応援するに相応しいくらいに日々の生活の中で頑張っているんだろうか」と我が身を振り返ることがあります。カナエルンジャーを応援しようと試行錯誤することが、知らず知らずのうちに自分自身を成長させるきっかけに繋がっていくはずです。
 
共に120日間を過ごしたカナエルンジャーが本番の舞台でスピーチをする姿は本当に感動します。他の誰でもないその子だけに照らされたスポットライトの中で、その子を応援しようと集まってくれた温かい人たちの前で堂々と自分の夢を語っているのです。カナエルンジャーには沢山の大切な人の存在がいるのでしょう。だから「自分も彼・彼女たちにとってその大切な人たちの一人になった」と分不相応なことは望みません。ただあの5分間の時間の中だけは、カナエルンジャーにとっての「一番の応援者」でいたいと強く想います。
あなたもそんな「一番の応援者」になってみませんか?
次のカナエールボランティアでお会い出来ることを楽しみにしています。
(2012〜2016カナエールボランティア:さくらい)


現在、カナエール2017のボランティア説明会を実施しています。カナエールボランティアについて、まずは話を聞きに来ませんか?
みなさまのご参加をお待ちしています。
1月5日(木)  19:30-21:30 東京大手町
1月8日(日)  13:00-15:00 東京大手町
1月14日(土) 10:00-12:00 横浜
1月15日(日) 10:00-12:00 東京大手町