「踏み入って、踏み留まって、踏み進める」 – 植村 百合香インタビュー

このエントリーはET Luv.Lab.の2013年1月11日付の記事を、サイトの承諾を得て引用しています。引用元の記事はこちら


「踏み入って、踏み留まって、踏み進める」

植村 百合香 – NPO法人ブリッジフォースマイル 事務局スタッフ

「ちっちゃい怪獣連れて行くね」、そう言われてブリッジフォースマイルというNPOに勤めている友達に紹介されたのが、植村百合香さんでした。初対面の時は別に彼女のプロジェクトの詳細を聞くわけでもなく、ただなんとなくこの子、大物だぞー、という気がしていて、気になっていました。

思えばだからそれは、「ちっちゃい怪獣だった」ということなんだと思うのですが、一度、プロジェクトの仔細を聞く機会があり、そこに至る経緯の僕の興味も相まって、インタビューさせていただくことになりました。実はET Luv.Lab.としてNPOの方にインタビューするのは初めてのこと。しっかり対決して来ましたので、彼女が立ち上げに関わったカナエールというプロジェクト、そして児童養護施設を取り巻く状況、知っていただけると嬉しいです。

夢を叶える、カナエール

【加藤】初めて友人に紹介された時に、カナエールをやってますじゃなくて、カナエールを立ち上げたって教えてもらったんだけど、それってどういうことなの?

【植村】そうなんです。元々、ブリッジフォースマイルの代表の林が私が入る半年前くらいから構想としては持っていたんですね。今の副実行委員長でもある羽塚さんという方が、ウェルフェアトレードと言って、福祉施設の自立支援をされてる方なんですけれど。その方から教えてもらった、はるかという児童養護施設を出た女の子が、奨学金を有志の方たちから送ってもらって進学を果たしたというエピソードがカナエール誕生のきっかけです。はるかが在学する3年間、まわりに居た30人の大人たちが1人1000円、毎月3万円を送り続けたんですね。その応援に励まされて、看護学校を卒業できて、無事看護師の夢も叶えた。進学したくてもできないと諦めている子でも、まわりの応援があれば頑張ることができるかもしれない。どの施設で育っても、子どもたちにははるかのようなチャンスを持って欲しい、応援を集める場として、奨学金のスピーチコンテストをやってはどうだろうか、っていう案を羽塚さんが林にまず話したんです。ただ、ぜひやりませんかと言われても、少人数のNPOなので人員がさけません。すごく良いアイデアだけれども、すごく労力もかかる中で、やりたけいどできないねというところで、とどまってたんです。半年後に私がインターンとして入ることになって、ちょうど人が来たからやらせてみよう、ということで、まさに林と私が立ち上げ、ほぼ中心となってやり始めた、という感じなんです。

【加藤】では、先行事例があって、とかではなくて。

【植村】ないですね。本当に初めての試みで。ビジネスプランコンペとかで夢を語る、賞金100万円で、というのはよくあるイベントだと思うんですけど。

【加藤】そうか、むしろ、そういうものにこれまでは参加している立場だったのかな。

【植村】ドリームプランプレゼンテーションという長年やっているものがあって有名だったりとか、大人が夢を語る、それを観客が観る、という場みたいなのはあったと思いますし、若者でいえば青年の主張とかもあると思うんですけど、あれと全然別のコンセプトで、児童養護の子にフォーカスしたものというのは今まで本当になかったので、全く新しい試みというか。

【加藤】暗中模索というか。

【植村】ゼロからのスタートで。コンセプトというよりは、目指したい姿だけあって、やろうか、という。

【加藤】で、どうやるの?という。

【植村】本当にどうやるの、です。ただ、協力者がちょっとずつ集まって来て、何とか今の形になっているけれども、まだ3年目で、まだまだ試行錯誤だし、新しい課題が出てきたりとか、日々成長しているようなプログラムという感じですね。

【加藤】今、120日で挑む、って書いてあるのは、1年周期でやってるってこと?

【植村】そうです。1年に1回、大体夏休み前くらいにこのコンテストをしたいという思いが最初からありまして、コンテストに出ることによって奨学金の給付の資格が与えられるんですね。奨学金の決定を夏休み前にしておくと、進学を目指しやすくなるのではないかと。高校3年生の9月くらいに進路を決定しなければならないので、それまでに奨学金のアテが少しでもついていると、安心して勉強できるよねとか、ちょっとお金のめどが立っていない時でも、月3万円が入るということがわかっていれば、少しは安心して進学を考えられるかなというのもあって、夏前にやりたいというのが元々あって、毎年6月とか7月にコンテストを開く。そのスピーチの準備を3ヶ月間する、というのがプログラムの大まかなスケジュールというか流れです。

【加藤】ちょっと話し戻っちゃうかも知れないけど、そういうことを保証されるという状況を作るには、先にサポーターの人を集めないといけないよね。

【植村】そうです。今は一人の児童養護施設の子に対して3人のサポーターをつけてます。チームでがっつり120日間関わりますし、その前に研修もあったりするので、半年くらいの付き合いになるプログラムです。当初はなかったんですけど、やっている間に、卒業まで見守る仕組みって大事だよねということになって。コンテストで解散のつもりだったのが、コンテスト後こそ心配だよ、ということで、今、コンテスト出た後も面談という形で毎月会う機会を設けています。コンテスト後もサポートを継続してくれる有志と一緒に。面談以外にもイベントですね、クリスマスパーティや報告会を行ってます。最長4年くらいのサポートプログラムになりますね。

【加藤】じゃあ、まだ終わった人いないくらい、ってことかな。

【植村】卒業をして、サポートが終了した子は2人います。そのうちの1人は、施設職員になる夢を叶えました。対象が高校2年生の子から進学して卒業まで1年残っている子、ということで、サポートの期間も幅広いんですね。

【加藤】そうか、途中からでも、ということだ。

【植村】2年目、3年目の奨学金の方が、実は全然少なかったりするので、心が折れやすいのが2年目3年目なわけです。そういう子達も入れていきたいよね、ということで当初は高校3年生の時点で奨学金の見通しがついているということを想定して、高校生に向けたプログラムだったんですが、中退率の高さが問題意識としてあるという点からも、卒園してから困っている子の方がむしろ多いよね、ということで幅広くしているという感じです。

【加藤】こないだお話うかがった時も、入っても働きながら学校も通わなければいけないから、途中でドロップアウトしてしまって、というケースも多いって言ってたよね。

【植村】そうですね。なので、夜間に通っている子も多いです。アルバイトしながら自分で生活費、学費賄わないといけないので、疲弊して単位取れなくて辞めちゃう、ということはありますね。後は人間関係でつまずく、コミュニケーションのところで、高校まではクラス制だから友達できても、大学入ると自分で作っていくしかないじゃないですか。そこでつまずいちゃうことも見ているとあるな、という感じがしています。

児童養護施設を取り巻く状況

【加藤】こないだ話してもらったことの繰り返しになっちゃうかも知れないけれど、そもそも養護施設の卒業生の子達にプログラムを用意しなければならなかった、というのはやっぱり必然があったんだよね。

【植村】そうですね、卒園とか退所っていう言い方をするんですけど、退所した子のための奨学金支援というのは実はいくつかあるんですよ。ただすごく門が狭いです。条件があって福祉系の学校に通う場合のみ給付されるとか。額は大きいんだけれど3人だけとか、18歳で卒園する子は年間1600人程と言われてるんですけど、そのうち進学率が20〜30%なので、300人から400人程度が進学するんですけど、進学が決まると同時に、みんな奨学金に一生懸命応募する訳です。退所する進学者全員に出るものは多くなく、少人数の枠に応募しなければいけなかったり、東京都だけの奨学金のプログラムだったりとか、児童養護施設の子たちのための奨学金という枠は、あるけれども、十分じゃない、ということがありますね。後は奨学金というのは基本的にお金を給付する仕組みですけど、私たちの大きな狙いとしては、資金と意欲の両面から支えるというのが大きなテーマで、お金だけじゃだめだよね、モチベーションが必要だよね、それを私たちは何かしら繋ぐ必要があるよね、ということです。国の方針などで、もし児童養護施設の子たち全員に奨学金が行き渡るようになったとしても存在意義があるとしたら、意欲のところをどういう風に醸成していくかというところが、最後に残るんじゃないかなという風には思ってるんですね。

【加藤】カナエールがコンテストをやることによって、チャンスが提示されるから、そこにモチベーションに対する動機付けが生まれる、ということだ。

【植村】コンテストにしたのはいくつかの意図があるんですけど、一つはまず子供たちにとってハードルを超えてもらう場になる、応援者を自分で巻き込んでもらう場になる、児童養護施設の子って自分に自信がなかったりとか、自己肯定感が低い子が比較的多いとされる中で、自分と向きあって原稿を作って人前で語るって言うのはすごく大きなハードルなんですよね。それを超えてもらうことで、自信を少しでもつけてもらったりとか、自分を見てくれている、応援してくれる人が、継続寄付者、エンパワメンバー、コンテスト来場者という形でたくさんいる、ということを知ってもらいたい。また、チケット代が寄付になるんですが、奨学金の原資を集める場としてという、当事者目線のコンテスト。もう一つは社会の目としてのコンテストというのがあって、児童養護施設の世界ってすごく閉ざされていて、普通に生きていると、なかなか会ったことがないと思うんです。

【加藤】こないだ、初めてだった。

【植村】そもそも隠していたりするし、結婚の時に差別とか、就職の時に、本当に少なくなっているとは思うんですけど、児童養護の子ということで誤解を受けやすかったりとか、まだまだそういう偏見がはびこっているんですね。そういうのも含めて、児童養護施設の現状をもっと正しく理解してもらう、というのが私たちのミッションかなとも思っていて、その時に大事なのは彼らの顔がしっかり見えること、だと思うんですよ。ただそれが簡単でない理由が児童福祉の現場にはあって、施設で生活する子の9割に親がいるんですね。親が居ないからじゃなく、養育できないから施設に居るんです。となると、親のプライバシーも守られなければならない。子どもが施設に居ることを知られたくない親御さんも居る中、施設の子達ってほとんど顔を出せなかったりします。それだけじゃなく、親と離すために都外に措置されてるのに、顔出して居場所がばれちゃって、なんて子どもの身の安全のためにも許されませんから。プライバシーを当然ですけどすごく守られていたりとか、施設職員の方も親御さんから預っているという気持ちあるので、無闇に出す訳にいかないというのが基本的にあると思います。そうすると、よく例として言わせていただいているんですけど、飢餓の問題を訴える時に、痩せ細った子の写真を見せるというのはビジュアルの力が大きくて、すごく伝えやすいじゃないですか。だけど、児童養護施設の子たちというのは、顔がまず出しづらいとか、実態がつかみづらいとか、そもそも閉鎖的にならざるを得ないというところから、現実には居るのに存在を伝えづらいんですね。それに加え問題が複雑化していて、適確に課題を伝えるということが難しくて、適切な支援を受けづらい。

【加藤】わかりやすい構造にし辛い、ということだ。

【植村】そうなんですよね。施設が求めている支援をマッチングするような現場の人的なリソースもないですし、よかれと思ってやっている事が、実際に役立っている訳ではないというミスマッチは生じています。声をしっかり聞いてもらう場を作ること。施設の子に会える場を作ることによって、そこで少しでも正しく理解してもらえればと思ったんです。WEBで出すのは難しくても、1日限りのイベントにすることによって、子どもを出しやすくなる。その方が職員の方の理解も得やすいですし、多くの人に応援したいという気持ちを持ってもらう事ができる。

スピーチでは施設の子が進学の夢を語ります。夢を応援したいと思ってくださった方には、継続寄付をお願いしています。顔の見える支援と私達は言っているんですが、今まで秘密のベールに包まれていた施設の子たちに出て来てもらって、彼らの置かれている現実とか現状に気づいてもらう。厳しい環境から、夢を持って頑張ろうとしている子がいる。逆境に向かう彼らを是非一緒に応援してください、という話なんです。

インターンをするために会社勤めを辞める、という選択

【加藤】そもそも、今の仕事につく前って、養護施設の子達との接触というか、そういうものへの関心ってあった?

【植村】私個人ですよね。なかった、というか、知らなかったんですよ。全然、知らなくて、インターンとして入る時まで、ぼんやりとしかしてなかったというか、児童養護のことが社会問題化していることもわかってなかったですし、こんなに根深いということも全然気付いてなかったし、という感じですね。

【加藤】それ、やってみないと実際わかんないというか、会ってみないと実際わかんないよね。

【植村】そうですね。入りたての頃はわからないことだらけで、やっていくうちに、なんて解決しなければいけない問題なんだろう、と思うようにはなりました。知れば知るほど、本当に根深いなあと思います。虐待もそうですが、例えば、オレオレ詐欺が社会問題化してますけど、親がオレオレ詐欺の担い手として逮捕され、施設に来たとか、起きている事件をひとつとっても、紐解くと、弱者である子供の存在が見えてきます、それ以前に、児童福祉の枠にも入れず、家もなくさまよっていたりということもあり得るわけですよね。社会にはびこる様々な問題のしわ寄せが、弱い立場の子どもに行ってしまっていると思うことは多々あります。

【加藤】現場に入って理解して、そこからは気持ちが変わった感じもする?最初はインターンとして働く場所を探しに来たわけでしょ。

【植村】最初はNPOとか社会起業家という言葉に憧れて転職をしたという感じですね。なので、NPOとか社会起業に近ければ選べない、というかどこでも良いかな、という風に思ってたんですけど、代表のメッセージだったりとか、ホームページ見たりする中で、すごく自分にしっくりくるなという感じがしたんですね。最初にここに入りたいと思ったきっかけとしては、こんなに根深いというか、こんなに大事なことが全然知られてないという危機感、焦りみたいなものがあって、ここにあることを知らせていきたい、と思って入ったというのが大きいです。なのでスタッフになれるとは思っていなくて、8ヶ月間インターンをして、その後どうしよう、プータローかな、それかボランティアでなにかやるかな、というところでした。

【加藤】でも面白いよね。一回、美大卒業して、就職して、会社勤めて、その後、インターン行ったんだよね。

【植村】そうなんです。辞めてインターンしろ、というプログラムだったので、2年3ヶ月会社にいたんですけど、そこから辞めてほとんどただ働きという。

【加藤】第二新卒くらいの年?

【植村】そうです、第二新卒くらいの年でしたね。その時は、NPOに行くとしか考えていなかったので。

【加藤】そうなんだ。

【植村】そう、他に探したというわけでもなくて、インターンに入るために辞めたんです。

【加藤】それは変な話、植村さんの周りの世代って、そういう人多いの?

【植村】えっと、そうなんですよ。同級生に一人やっている子はいるんですけど、あまりいないですね。インターンプログラムの繋がりの中で、同じように会社を辞めて入った人達もいたんです。フローレンスとかカタリバとかに会社辞めてインターンした人もいたりして、少数で変わり者の集まりだったんですけど、同じくらいの年齢で同じように会社勤めしてNPO入った人結構いるな、という感覚はその時はあったんですけど、全体からすればやっぱり全然レアですよね。

【加藤】まあ、そりゃそうだ。フリーランスも少ないもん。

【植村】ははは、そうですよね。

【加藤】そうかそうか。でも、そこから社員になる?

【植村】8ヶ月後の3月でインターンが終わる予定だったんですけど、4月から正規スタッフになったという感じです。常勤のスタッフになりました。カナエールが立ち上がって終わりそうにもなくて、インターンは終わるんだけど、カナエールは全然終わらない。ようやく道筋見えてきたよね、だけどインターン終わっちゃうよね、っていう状況なんですけど、誰も何も言ってくれないんですよ(笑)だから、私どうなるんだろう、カナエール辞めるわけにはいかない立場になってたので、どうなるんだろう、という時に、インターン終わるけどどう?って代表から声をかけていただいて、本当にこれからというところでしたから、スタッフとしてそのまま勤めることになって、今日までカナエールを回しているというところです。

【加藤】カナエールやっていたから、自分の勤めたい就職先に就職叶っちゃったわけだ。

【植村】そうですね。いま、イベント企画とか、元々やりたかったことがまさしく叶ってるんですよ。

当時、震災の影響もあって、色々なことがバタバタして、せっかく初年度の奨学生がやっと集まってオリエンテーションをして、これからコンテストまで頑張るぞ、という、まさにその前日に震災があったんです。これから企業の協賛集めにもっと営業しないといけない中で、企業は当然震災支援に向かうという存続の危機で。せっかく、支援対象者が10人決まったのに、資金的なめどとか、もろもろのことがペンディングというかわからない状態になっちゃたんです。

【加藤】あの時、色々なことが一回リセットになっちゃったからね。

【植村】そうですよ。だから彼らには、ごめんなさい、今こういう状況だから色々な結論を出すまで待って、というお願いをして。ただ震災の翌日、3月12日にオリエンテーションは決行したんです。10人集めたんです。関東の奥の子は来れなかったんですけど、9人は集まって、オリエンテーションはやったんです。なんですけれども、そういうことをやっているような状況じゃ日本なかったし、その時いた実行委員を招集して、話し合いをして、3ヶ月後ろ倒しにしてやってみようということでやりました。そういうこともあって、私全然辞めれる状況じゃなかったんです。だから、いつの間にかスタッフで、今日まで来てるという感じです。

【加藤】運命って言うより、宿命っぽいよね。

【植村】そうそう宿命です。インターンプログラムに同期と7名で参加してたんですけど、終了と同時に東北に行った子もいますし、それまではNPOにいるとか、寄付を集めているということが私の中では異質だったんですけど、3月11日ががらっとこの世界を変えたなというのを目の当たりにした気がします。

【加藤】実際、あれがなかったら、カナエールに対するサポートの仕方というのも、違うものになっていたかも知れないしね。

【植村】そうですね。話し合いの結果、私達も東北支援をすることにしたんです。東北にいて、施設の子と同じ状況、18歳以上の児童福祉の輪から外れるから公的支援を受けれないんだけど、親の力を頼れない方、つまり震災で親御さんを亡くされた方を対象に奨学金支援をしていて、今も実はやってるんですけど、それはコンテストはせずお金のお給付をしているという状況です。そのお陰で、企業からの支援を受けやすくなったりもしたので、結果的には本当に決行して良かったと思うんですけど。

【加藤】その、流れているものが、流れ続ける状態を作っておかないと、回っていかないからね。震災から1年経って2年経って3年経ってという中で、どんどん蛇口からの水が減ってって、まあお金が減ってくのはしょうがないと思うんだけど、流れ自体が堰き止められちゃうと、せっかく新しい文化が生まれたはずなのに、それが残っていかないものね。

カナエールが描く未来

【加藤】最後に聞いておきたいなと思ったのが、カナエールで学生さんが大学を卒業して就職できるようになるじゃないですか。そうすると世の中はどういう風に変わると思ってるのかなと思って。

【植村】社会も、施設に対しても、少しづつ意識を変えることはできると思ってます。ロールモデルが今すごく少ないんですよね。

【加藤】若い子にとってということだよね。

【植村】そうです。施設を出て、進学まで果たした子。今、私達は卒園して進学して卒業できる子って全体の12%って言い方をしてるんですけど、卒業できる子とか、会社に勤めて続けて家族も持って、幸せな先輩というのをあまり子供達が見れてないという状況があるんですね。一人でも笑顔で頑張っている先輩を増やすことによって、あきらめちゃてる子とか、どうせ自分なんてって思ってる子に対して、自分ができるかもという希望を作れるかなという気がしていて、ちょっとずつでも輪と言いますか、ロールモデルを作っていって、還元していく仕組みというのを作れるといいなとは思っています。

【加藤】だからカナエールってプロジェクトは面白いと思ってるのが、さっき卒園する子が年に1600人いるって言ってたでしょう?1600人を全部一気に面倒見る、1600人って決して多すぎない数だとは思うけど、それでもやっぱり大変じゃない。だったら川上から少しずつ裾野が広がっていくような流れを作っていって、という考え方というのは、小さな組織でも社会問題に対して影響力を発揮できるって意味では、うまいというか、機能するやり方だと思う。

【植村】まさに今の奨学生の子たちの中には、うちの施設からの初めての進学者です、という子もいるんです。それまで進学しないのが当たり前だった中、一人進学者が出た、ということで事例ができるので、先生たちも意識が変わりますよね。できるのかも知れないって。次につながりやすくなる。心傷ついている子も少なくない中で、ちゃんと頑張っている先輩を見せるのは大事なことだと思います。

成功している施設出身者の方もいるんですけど、そういう人達を見せるのも大事かもしれませんが、一緒に悪さした先輩がなんか頑張って良い感じに仕事してるじゃんという方が恐らく効くんです。そうだよな、自分もできるかもなという

【加藤】リアリティがある。

【植村】実感を持って頑張れるというか。職員の方も、今までは茨の道である進学を薦めることは怖い部分もあったけれど、少しでも事例ができることによって、ああこういう風にすると卒業ってちゃんとできるのかというのが見えて、空気もまた変わっていくのかと思います。一人でも多く夢を持ったり希望を持ったりできるように、頑張ったら応援してくれる人はいるよ、というのが本人たちに伝わるように、これからもできたらいいなと思いますね。

【加藤】養護施設の、今入っているお子さんが一番大事なんだけど、多分そこに関わっている人達が皆少しずつ今までより良い方向に働きかけれる自信みたいなものを作っていかないと、さっきも言った1600人を自分達が全部面倒見れるって話じゃないから、そこに関わっている人達も一緒に変えていかないといけないということだよね。

【植村】そうですね。今私達も全国展開というのを視野に入れつつ頑張ろうとしているのは、首都圏ってそれでも恵まれていて、お金も人も集まりやすいので、施設の状況としてはそれでも良い方なんですけど、地域間格差が大きくて、1県に5施設とかなかったりすると、職員同士の情報交換もなかったりとか、良い事例の交換とかもしづらいんですね。もっともっと地方にも待ってる子供達っているんじゃないかなと思っていて、カナエールとしても一刻も早くこういう仕組みを色々なところに広められたら良いなと思ってるんですよね。だから、本当におっしゃってる通り、1600人という数字、そもそも児童養護施設で生活している子が3万人なので、すごく多い数なんだっけという部分もありつつ、でもそういう問題じゃないなっていうのも感じていて、一人一人が抱えている問題が、一言では到底言い表せない複雑さを持っているんですよ。カナエールの支援が全員に当てはまる訳ではなくて、自分を語る上で過去を思い出してフラッシュバックしてしまうくらいの心の傷を持っている子がいる中で、子どもによってはリスクもあるし、同じような支援を届けても合ってる子もいれば、全然違うサポートが必要な子もいるんです。私達にできることっていうのは、どうしても児童養護施設の中でもエリート層というか、進学を目指して頑張ろうと手を挙げてくれる、タッチしやすい子になります。困難な状況下でもやりたい事を見つけられるというのは施設の中でいえば相当優秀な子なんですね。頑張ろうとしているけどなかなか力が得られない子達をまず後押しして、意欲もやりたいこともまだない子に対しても、ロールモデルを見せることによって、何かを目指すことになる機会を増やしていければいいなと考えているんです。ただ、まずはいわゆる優秀な子達ですら落ちそうな状況なので、そこを拾い上げる段階でしかなくて。まだまだやることはたくさんあるんですけど、これからだなと思っています。

【加藤】でも滔々と言葉が出てくるから。

【植村】いやいや、すいません、インタビュー用にちゃんと話さないとと思って。もっとラフでも良かったんですが。

【加藤】ううん、多分、やってることに自信あるんだなあと思って。

【植村】ありがとうございます!まあ、これしかやってないですからね。

【加藤】言っても、植村さんもある意味ロールモデルを務めないといけない部分はあるので、それは養護施設の子達だけじゃなくて、これから社会起業の現場に出てきたい人、そういう世界って言うのも雇用が安定してたり、勤めたい人を皆雇える世界でもないだろうから、カナエールとかがうまく行って、少しでも若い子達が後に続いてくれると良いですよね。頑張ってください。

【植村】ありがとうございます。良かった。