知っていますか?奨学金のホントのところ – カナエールが目指すもの

■ 奨学金の現状
返済が滞る奨学金。ニュースはもとより、政治の舞台や、日々の会話の中でも「給付型奨学金」という言葉を耳にする機会が多くなったように思います。奨学金には貸与型奨学金(返済義務があるもの)と給付型奨学金(返済義務がないもの)があります。現在話題になっているのが貸与型奨学金の問題、そしてその解決策としてクローズアップされているのが給付型奨学金です。
実際の数字をシミュレーションしてみましょう。選んだ進路によりますが、貸与型奨学金を利用した場合、一般的に20代で300~600万円近くの借金を負うことになります。大学卒業後、就職できないと、返済遅れや返済不能に陥り、負の連鎖から逃れられない人も多くいるため、貸与型奨学金の未返還者は実に32万人を数えます。このことが社会問題としてクローズアップされているのです。
(西日本新聞より参照 http://www.nishinippon.co.jp/feature/tomorrow_to_children/article/235895)
■ 一人暮らし1ヶ月あたりの生活費平均
初任給(平均)約20万7,450円(手取りだと17万程度)
奨学金返済額 平均300万 16年完済の場合・15,600円 

  • 家賃65,000円
  • 電気代3,500円
  • ガス代4,000円
  • 水道代3,000円
  • 食費 25,000円
  • 通信費、交際費、日用品、その他 50,000 円
  • 生活費合計:150,500円

この数字を見るとわかる通り、貯金はおろか、奨学金を返すのがやっと。冠婚葬祭などの急な出費が発生してしまうと、家計は火の車です。就職・転職がうまくいかなかったり、病気にかかって仕事ができなくなると万事休すその月に支払えなかった奨学金は、翌月に繰り越され、翌月は支払額が2倍に…。このようにして、負の連鎖がはじまるのです。おそらく正規雇用でないと、返済へのハードルは相当高い数字となっています。これが奨学金をめぐる厳しい現状なのです
 
■ 給付型奨学金としてのカナエール
 こうした中、カナエールは給付型奨学金の形を取っています。卒業までの間、月々3万円の奨学金を給付します。決して多い金額とは言えませんが、親を頼ることができず、学びながら働きながら、学業と生活を両立させなければならない若ものに、約40時間分のアルバイト代に相当する「時間のプレゼント」をすることで、進学率が20%(全国平均75%)、進学先の中退率が30%(全国平均10%)という社会的養護出身者をサポートすることができると考えています。近年では、日本財団による夢の奨学金を初めとして、地方公共団体や支援組織が社会的養護出身者を対象とするこの「給付型奨学金」に積極的に取り組む動きが見受けられます。多くの若ものに継続的な支援が差し伸べられればと思います。
 
■ カナエールと夢スピーチコンテスト
私も社会的養護に支えられた当事者の一人です。2007年に施設を退所後、四年制大学に進学。当時は奨学金の選択肢がほとんどなく、私が受けることができたのは、日本学生支援機構の「貸与型奨学金」のみ。
卒業して5年たった現在も奨学金の返済を続けています。そんな当事者の経験を持つ私が、実行委員として関わっているカナエール。その特徴をお話します。
 ・特徴①
多くの若ものは、とにかく奨学金が欲しい。何をするにしても先立つものはお金
—施設を卒業したら、1人で
生活しなくちゃいけないから。18歳で。
私たち当事者は『信頼できる大人との継続的な関係』を1番必要としています
—施設を卒業したら、1人で
何でも乗り越えなきゃいけないから。18歳で。
カナエールへの参加は、多くの場合、最初はお金が目的かも知れません。しかし、時間が経ってみると、お金以上にカナエールを通して自分を支えてくれた大人たちとの関係が大事だということに気づきます。カナエールに関わって、そんな若ものたちを多く目にして来ました。
 スピーチコンテストを終えた後も、カナエールその後をサポートする「グランドカナエール」や、運営団体である、ブリッジフォースマイルのその他のプログラムとも連携しながら、彼ら彼女らを支えます。前年の夢スピーチコンテストで自分の施設の先輩の姿を見て、応募をしてくれる奨学生も増えて来ました。決して多くの若ものをサポートできるプログラムではありませんが、社会的養護出身者のロールモデルとなるような、そんな先輩たちが生まれるプログラムであって欲しいと考えています。私も今、自分の後輩たちをカナエールというプログラムを通じてサポートしています。
・特徴②
カナエールからの奨学金給付には、夢スピーチコンテストでの「スピーチ」が参加条件になります。カナエールの特徴は「資金」と「意欲」の両面から若ものの夢をサポートすることです。
若ものは120日間かけて、初めて出会った大人たちと「自分の夢を大勢の前で語ること」に挑戦します。3人の社会人ボランティア(エンパワ)を初め、様々なプロの大人のサポートを受けながら、本番の舞台を目指します。
このスピーチコンテストへの出場が「資金の条件」であり「意欲の源泉」になるのです。
 
おわりに…
今年もカナエール 2016 夢スピーチコンテストが開催されます。後輩たちが夢を語る舞台が、今から楽しみでなりません。是非、会場でスピーチに耳を傾け、彼ら彼女らの夢を「支える人」の1人になってください。会場でお会いするのを楽しみにしています

【レポート:実行委員ゆきまる/協力:こーすけ】